光のどけき

 アイメリクが、死んだ。
 もう少し悲しみに暮れるかと思ったが、いつのまにか俺は、心の整理を順調につけていたらしい。
 水が飲みたいと言えば飲ませてやったし、本が読みたいと言えば拡大鏡を握らせてやった。腹は空いていなさそうだったが、食い物を口に突っ込んでやった。

 あんなに大勢の部下を従えていたアイメリクも、最期は神殿騎士団病院の病室で、俺とたった二人だった。
 持ち直した日は旅の話をねだるから、各地の景色からサボテンダーの味まで、いろんなことを話してやった。心残りがあるとすれば、アイメリクに旅をさせてやれなかったことだ。
 アイメリクは、議長として共和政の推進をする間に、神殿騎士団総長として同盟軍で何度も指揮を執った。齢を重ね、戦場で脚を負傷して以降は、前線を退いてボーレル邸に籠った。
 旅に出たいというから回復を待っていたのだが、アイメリクの負傷した脚は悪くなってしまった。なら車椅子でも構わん、むしろ歩くより早かろうと提案したが、指導助言をせねばと言って、結局この馬鹿は、晩年を若手の育成に費やしてしまった。
 ボーレル邸へひっきりなしに客が来ていた頃が、懐かしい。俺は少しだけ、茶を淹れるのがうまくなった。
 客は皆、分厚い本や大量の書類を持って訪れ、老いた前議長前総長の言葉に目を輝かせた。アイメリクがボーレル邸から議会と神殿騎士団の世話を支えてやったお陰で、イシュガルドという赤ん坊は、つかまり立ちができるようになった。
「因果なものだな、アイメリクよ」
 握った手が冷たくなるごとに、青白い小さな光の粒が、空へ立ちのぼる。俺は時々してやったように、アイメリクの唇に、自分の唇を重ねた。
 アイメリクの顔を間近で眺める。気の抜けた顔をしているのに、眉間に皺がくっきりと刻まれていた。指で皺を伸ばしてやったが、すぐにもどってしまった。
「まぁ、これからだな、お前の旅は。せいぜい、死ぬまでお前を覚えていてやるさ」
 アイメリクの枕元に置かれたベルに、ゆっくりと手を伸ばす。コイツを鳴らして、抜け殻とはさよならだ。

 ベルの音が、すずやかに鳴った。
 春の日の、蒼空が柔らかな午後のことだった。