短文習作

🖊️わかれ

 夜が高らかに明けてしまっては、私とお前は、わかれてしまう。その身体では再び夜が来て巡りあうだろうが、私の心は千切れそうだった。
 我が友は邪竜ニーズヘッグとの死闘を乗り越えて奇跡的に生還したが、神殿騎士団病院での彼の容態はなかなか安定しなかった。焼け死んでしまいそうなほどの高熱、魂が氷天にいざなわれたかと思われるほどの低体温。今晩は落ち着いているなと胸を撫で下ろした日の夜明け前、むにゃむにゃと寝言を言い始めたので耳をそば立てると、ラタトスクなどと言うではないか。私は思わず手を取って、エスティニアン、と喚びかけた。呼び止めるように、縋るように、何度も、何度も喚びかけた。
 戦神ハルオーネよ、どうか我が友を救いたまえ。邪竜ニーズヘッグよ、我が友を還したまえ。神よ、邪竜よ、これは私の唯一の、かけがえのない友なのだ。——私は友の傍らで、まどろみながらも祈り続ける。そうして、朝がやってくる。私が目を離した束の間に、エスティニアンがいなくなってしまったら?頼むから、何者も彼の命を奪わないでくれ。私のちっぽけな命で良ければ、差し出したって構わない。
 病室の窓から見える明けの太陽が、私の心におそれを焼き付ける。公務に戻らなくてはならない頃合いだが、私はエスティニアンとのわかれが、怖かった。

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🖊️ドラゴンキラーズの祝い酒

 私が初めてエスティニアンと飲みに出たのは、二人がドラゴンキラーとして表彰された日の夜だった。
 その日は珍しく冷たい向かい風がびゅうびゅう吹いていて、訓練から帰還するためチョコボに乗るもヨチヨチ歩きでしか歩いてくれずたいへん苦労したが、そのお陰でドラゴンキラーのための祝い飯として出された夕飯のクラムチャウダーがいつもの夕飯の何十倍も旨く感じたものだ。エスティニアンと私はクラムチャウダーで暖を取るように何杯もおかわりをして、身体の芯に温かさをたっぷり蓄えてから忘れられた騎士亭へ向かった。
 エスティニアンは普段は、羽虫にも満たぬ弱々しい男どもとどうして仲良くやっていく必要があろうかというふてぶてしさでどこに行くにも単独行動だったが、今日は私にすっかり気を許した様子で、外套を羽織りに一度寮に戻った私に向かって悪戯っぽく、置いて行くぞと声を掛けた。
 彼は忘れられた騎士亭の扉を開けると、ステップを踏むように小気味良い足音を鳴らして階段を駆け降りた。彼の腕にはドラゴンキラーの栄誉を讃えて総長から贈られた、青々としたドラゴン革に大振りのラリマールがあしらわれたドラゴンレザー・リストバンド。それが洋燈の灯りに照らされて艶やかに煌めくと、蒸留酒を傾ける彼のグラスの角度は一層深くなった。一杯目のグラスはあっという間に空になって、互いに二杯目三杯目と酒は進んだが、酒に強い自負があった私でさえ、彼のご機嫌な呑みの速さと強さには舌を巻いたものだ。

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🖊️或る男の依頼

 思い出す度むかつくな。まったくあいつは、俺に冒険者居住区の警備をさせようなんざどうかしていると思わないか? あれが噂の蒼の竜騎士、ニーズヘッグに肉体を乗っ取られるも最後には英雄と共にニーズヘッグを捩じ伏せて竜詩戦争を見事終わらせた立役者! 彼が冒険者居住区の警備をしてくれているなら安心だ! へぇ蒼の竜騎士が常駐しているのか是非一目お逢いしたいよ、ようし私もイシュガルドの冒険者居住区に入居するぞ、なんてうまい流れになると思ったのかあいつは? そんな訳が無いだろう。相棒ならわかるだろう? 俺は四六時中見世物になるばかりか、こう囁かれるんだ。暁の血盟の一員として世界を救った英雄ではあるが、組織が解散しちまって今は食い扶持が無いらしいぞ。英雄ってのも大変だな。旧友が算段をつけてくれて今はここの警備に当たっているらしい。もっと神殿騎士の指南役などまともな仕事はなかったのだろうか可哀想に、とな。哀れみの目で見られるのがオチだろうさ。相棒が俺の立場だったらどうだ? 嫌に決まっているだろう。なぜアイメリクにはそれがわからんのか俺にはさっぱりわからん。頭のネジをスカイスチール機工房でこさえてもらった方が良いぜ。そんなに見世物になりたけりゃあ、自分がやりゃあ良いだろう、なぁ? 相棒。そういやそろそろアレがイシュガルドに届く頃だぜ。染め物屋に青く染めてもらったから、色も気にいるんじゃないか? もしあいつが嬉々として着ていたらどうする? 俺は、友達を辞める。昔から純粋ど天然野郎だったから、正直、あいつは一度は袖を通していると思う。なぁ相棒、頼みがある。イシュガルドに行くことがあったら冒険者居住区も見てきてくれないか。まさかとは思うが、アイメリクの野郎が青い象の着ぐるみを被って練り歩いていないか、確認しちゃあくれないか。おい何でも請け負うのがお前のポリシーだったろう。俺の依頼を断るなよ、ついででいいんだ。どうか頼む。