estimeric

光のどけき

 アイメリクが、死んだ。 もう少し悲しみに暮れるかと思ったが、いつのまにか俺は、心の整理を順調につけていたらしい。 水が飲みたいと言えば飲ませてやったし、本が読みたいと言えば拡大鏡を握らせてやった。腹は空いていなさそうだったが、食い物を口に…

さすらいびと、東へ

 湯で湿った木材の香りが、息を吸うごとに身体を巡る。嗅いだことのない、良い香りだ。木に労られているようだった。 脱衣所で、水着に着替える。キャンプ・ブロンズレイクにある湯治場の脱衣所は、同じく屋外にはあったが、簡易的な個室になっていた。こち…

大切な話はベッドで囁く

 ベッドサイドに置かれたルームランプの足下に、淡い光を浴びてつやめく小箱があった。情を交わす最中、友の脚を担いだときに掌よりもずっと小さなそれが視界に入り、エスティニアンはかすかに疑問を抱いた。 汗がすべてシーツに吸われ、熱が引いてきたころ…

炎より生まれし星

 たとえ夜が明けなくとも、羊には草を食わせなくては。幼きエスティニアンは、雨音が止むとともに起き、身支度を整える。 外で桶から水を掬い、顔を洗っていると、弟のアミニャンが眼をこすりながらふらふらと近寄ってきた。アミニャンはエスティニアンの様…

旅のはじまりに

 カーラインカフェの世話役によると、黒衣森を夜歩くのはなにかと良くないらしい。旅慣れぬのなら、なおさらだそうだ。 妖精にいたずらをされたくなければ、朝に発つのがいいと言う。その話を聞いた瞬間、以前モーグリ族にいたずらをされたことのあるエステ…

人の祈り

 聖トールダン大聖堂は、星芒祭のミサを前に、人々のさざなみのような話し声と、子どもたちの笑い声に包まれていた。 子どもたちは神学生に前方へ座るよう勧められ、親の手を引いて嬉しそうに駆けてゆく。前列には、様々な身なりの子どもたちとその親が集ま…

朝陽と共に去りぬ

 五十余年も生きてきたが、いつものコートをまとわずに玄関を出るのは、もしかすると初めてかもしれない。 エスティニアンの依頼でタタル嬢が用意した旅装は、アイメリクの身体や動きによく合った。 縫い目はどこも細やかで、よれもほつれもまったくない。…

卵を三つ、トマトを一切れ

 その日は一日大雨で、アイメリクは外出を嫌がった。 イシュガルドの雨は苦い記憶を想起させる、特に夜は出掛けたくないと言うので、俺達は飲み屋に行く予定を取り止めた。心の傷は、そう簡単には消えやしない。ヤツも、俺も、同じだった。 保管されていた…

フィリア、或いはアガペーに似た、

 病室の窓辺に、花が飾られている。細い花瓶に一本、黄色く小さな綿のような花が、全身で春を謳っている。花はこまめに替えられているのか、入院当初はペリウィンクルだったのが、気がつくとミモザに替わっていた。その花を背にして、私は病室を後にした。ド…

愛しき子らよ、安らかにあれ

  窓の縁が、きい、と音を立てたから、私は飛び起きて名前を呼んだ。 雪が数滴ガラスに張り付き、それから風が吹いた。窓の縁は、風を迎えてひゅうひゅうと鳴っている。しばらく窓辺を注視していたが、しかし窓は私の視線に気がついて遠慮したか…